ある研究では、日本が睡眠不足によって失う経済価値は、年間最大1380億ドル。
当時の為替で換算すると、およそ15兆円のもどると推計されています。
これは睡眠不足による仕事の能率低下や欠勤、健康への影響などが社会全体へ及ぼす損失を、経済モデルによって推計した数字です。
それでも睡眠不足が個人の体調だけでなく、企業や社会の生産性にまで影響していることがわかります。
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寝不足でも、人は仕事へ行く
寝不足だからといって、仕事を休む人はそれほど多くないでしょう。
あまり眠れなかった朝も、とりあえず起きる。
身支度をして職場へ向かう。
眠気をコーヒーで流し込みながえら、それなりに1日をこなして帰ってくる。
だから、睡眠不足による損失は「仕事を休んだ日数」だけでは計れません。
職場には来ているけれど、本来の力を充分に発揮できていない状態を「プレゼンティーズム」と呼びます。
RAND Europeの報告でも、睡眠不足による生産性の損失には、欠勤だけでなく、出勤していても能率が低下することが含まれています。
眠れていなくても、仕事はできる。
けれど、それは「いつもどおりの能力を発揮できている」という意味ではないのです。
自分の寝不足には、気付きにくい
睡眠不足の難しいところは、その状態に少しずつ慣れてしまうことです。
朝から頭が重い。
集中が続かない。
些細なことでイライラする。
考えがまとまらない。
何をするにも、いつもより少し億劫に感じる。
それでも毎日が続いていれば、「これが普通」になっていきます。
睡眠不足では、注意力や判断力などの認知機能が低下し、気分にも変化が生じることが報告されています。
それなのに私たちは、その不調を睡眠ではなく、自分自身の問題として受け取ってしまうことがあります。
仕事がうまくいかないのは、能力が足りないから。
何が自分に向いているのか分からないのは、才能がないから。
人間関係に疲れるのは、性格に問題があるから。
自分が何を望んでいるのか分からないのは、意思が弱いから。
けれど、その結論を出した脳は、充分に眠れていたでしょうか。
眠れていない脳が、人生を判断しているかもしれない
もちろん、すべての悩みが睡眠だけで解決するわけではありません。
仕事の環境、人間関係、生活状況、その人が抱えてきた経験。
人生には、さまざまな要因が関係しています。
ただ、睡眠が足りない状態では、集中力や判断力が落ちやすく、感情の調整も難しくなります。
本当なら受け流せた言葉に、深く傷つく。
本当なら考えられた選択肢が、見えなくなる。
本当ならもう少し待てた場面で、全てを諦めたくなる。
睡眠不足が人生の問題を生み出しているとは限りません。
けれど、目の前の問題を、実際より大きく、重く、逃げ場のないものに見せている可能性はあります。
充分に眠れた自分を、私たちは知らない
寝不足を自覚できている人が少ないのと同じように、充分に眠れている自分が、どれほどの力を発揮できるのかを知っている人も多くありません。
寝起きから身体が軽い。
考えが自然にまとまる。
感情に少し余白がある。
人の言葉に振り回されすぎず、自分の望みを選べる。
もし、まだ発揮されていない「本来の自分」がいるとするなら。
その自分は、どんな仕事をするのでしょう。
どんな人と関わり、何を選び、どんな人生を生み出すのでしょうか。
人はなぜ、眠る時間を「失う時間」だと思うのだろう。
起きている時間には、分かりやすい成果があります。
仕事が進む。
家事が終わる。
誰かに連絡できる。
好きな動画を見られる。
眠っている時間には、目に見える成果がありません。
何もしていないように見えるから、忙しくなるほど睡眠は後回しにされます。
けれど、眠っている間も、脳と身体は止まっているわけではありません。
記憶を整理し、心身の状態を整え、翌日の活動に備えています。
睡眠は、人生から差し引かれる時間ではない。
明日の自分を作る時間。
眠れる身体へ戻るために
疲れているのに力が抜けない。
横になっても考え事が止まらない。
休もうとしているのに、身体はまだ一日を続けようとしている。
そんなとき、必要なのは「早く眠らなければ」と、さらに自分を追い込むことではないのかもしれません。
マッサージやリラクゼーションは、睡眠障害そのものを治療するものではありません。
それでも、人の手に身体を預け、呼吸をし、自分では気づけなかった力みを手放していく時間は、「もう休んでもいい」と身体を切り替えるきっかけになります。
目塗るためには。眠り方だけではなく、起きている間にどれだけ緊張を溶けるかも大切です。
睡眠とは、
自分の中にある力を、よりよい方向に発揮するための時間です。
脳に散らばった情報を整理し、
感情と身体の状態を整え、
明日を生きるためのエネルギーを蓄える。
眠っている時間は、何も生み出していない時間ではありません。
まだ発揮されていない自分の力を、引き出すための準備時間なのです。
参考資料
・RAND Europe「Why sleep matters — the economic costs of insufficient sleep」
・Sleep deprivation: Impact on cognitive performance
・The Role of Sleep in Emotional Brain Function
※眠れない状態が長く続く場合や、日中の生活に強い支障がある場合は、医療機関へご相談ください。



