前回の記事で👉「マッサージとボディケアは目的が違う」(記事はこちら)
という話をしました。
治療は「痛みの原因を改善すること」が目的。
ボディケアは「回復を促すこと」が目的。
言葉のニュアンスは違っても、どちらも“よりよい状態へ導く”という点では同じゴールを目指しています。
では──実際の施術の過程では、何が違うのでしょうか?
たとえば、家の「柱」にヒビが入ったとします。
治療では、そのヒビが生じた原因を特定し、柱そのものを修復する処置が行われます。
一方で、ボディケアでは診断や治療行為は行えないため、
「なぜ柱に負担がかかったのか」を探り、その負担となる要因をやわらげるケアを行います。
柱そのものを“治す”のではなく、“柱が自ら回復できる余力を取り戻す”──
それがリラクゼーションにおけるアプローチなのです。
なぜ身体はこるのか
筋肉は、使いすぎても・使わなさすぎても“こり”を引き起こします。
そして、その背景には大きく分けて
肉体的ストレスと精神的ストレスの2つが関係しています。
身体的なストレス(長時間の姿勢・過度な動作など)は、同じ筋肉を使い続けることで血流を滞らせ、呼吸の浅さや酸素供給の不足を招きます。
一方、精神的ストレス(緊張・不安・過集中など)は、
自律神経のバランスを崩し、筋肉の緊張をコントロールする機能を乱します。
その結果、酸素や栄養が細胞に届きにくくなり、
筋肉は硬くなり、体液の循環が悪化していきます。
こうして疲労物質がたまり、やがて“コリ”として感じられるようになるのです。
さらに現代人は、
長時間のデスクワークやスマホ操作など、同じ姿勢を保つ習慣が増えています。
この状態が続くと、筋肉はその姿勢を“正しい形”として覚え込み、
いわば 「形状記憶するコリ」 を抱えやすくなります。
つまり──
コリとは、身体が“現状を維持しようとするプログラム”。
無理に壊すのではなく、
“思い出させるように解除し、緩めていく”ことが、リラクゼーションの本質なのです。
なぜ“コリ”のある場所ほど気持ちよく感じるのか
こりを押されたとき、「そこそこ!そこが気持ちいい!」と感じる瞬間。
あれは偶然ではなく、身体の神経反応によって起きています。
実は、私たちの身体には“痛みを伝える神経(Aδ線維)”と、“心地よさを伝える神経(Aβ線維)”が存在します。
この2つの神経は常にバランスを取り合っていて、どちらの信号が強く伝わるかで感覚が変わるのです。
たとえば、こりがある部分は筋肉の中で血流が滞り、酸素不足や老廃物の蓄積が起きています。
その状態では、痛みを感じるAδ線維が興奮しやすくなりますが、
同時に“やさしく・正しい”圧が加わると、Aβ線維が優位に働き始めます。
すると、脳の中では痛み信号がブロックされ、
「痛い」から「気持ちいい」へと切り替わる。
この仕組みを「ゲートコントロール理論」といいます。
つまり、“気持ちよさ”とは単なる感覚ではなく、
神経レベルで痛みが上書きされている現象なのです。
コリのある部分は神経の反応が強いぶん、
その「切り替え」の変化も大きく感じやすい。
だからこそ、こりがある場所ほど“気持ちよさ”が際立つのです。
こっていない場所が何も感じない理由
こっていない場所を押しても「何も感じない」ときがありますよね。
それは、そこに神経の“関心”が向いていないからなんです。
神経は、常に全身をモニタリングしているようで、
実際には「変化が起きている部分」にしか強く反応しません。
つまり、“刺激に対して反応するのは、すでに負荷が蓄積している部分”なのです。
こっていない場所は、血流や神経の伝達が安定しており、
脳に「ここを守る必要がない」と判断されています。
そのため、同じ刺激を与えても、脳は「わざわざ感じ取る必要がない」とスルーしてしまう。
逆に、こっている部分は微細な刺激にも反応しやすく、
痛みや心地よさを強く感じる“感覚のアンテナ”が立っています。
身体は、常にバランスを取ろうとしています。
何も感じない場所は「問題がない」のではなく、
“今は静かに呼吸している場所” なのです。
そして、感じる場所は、
「ここに気づいて」「もう限界だよ」と語りかけている場所。
その両方が、あなたという身体の中で共存しています。
感じない部分が“静けさ”なら、感じる部分は“声”──
その声を丁寧に聴くことこそ、リラクゼーションの第一歩です。
痛みで神経と会話する
痛みは、身体の中で鳴っている小さなアラームのようなものです。
無理に止めようとすればするほど、その声は大きくなり、やがて「不快」として心にまで届くようになります。
けれど──
その痛みの裏には、必ず理由があります。
守ろうとして固まった筋肉、同じ姿勢を続けてきた時間、
あるいは、気づかないうちに背負ってきた心の重さ。
押された瞬間に「痛い」から始まって、
少しずつ「気持ちいい」に変わるあの感覚。
コリは努力の勲章。
だからこそ、気持ちよさで“表彰”してあげる。
そして、痛みとともに疲労が抜けたとき──
身体の中では、神経が穏やかに息をしはじめる時間が訪れます。
治療もボディケアも、目指すゴールは同じ。
けれど──その過程の中で“神経とどう向き合うか”
神経との対話こそ、癒しの本質なのです。
そして、その癒しは一度きりでは終わりません。
神経が安心を学び、身体が緩み、心が解けていく。
その穏やかな波紋は、やがて“生き方”にまで広がっていくのです。
癒しの連鎖反応は、人生を豊かにする。








